水面に映るカノープス

長良川・木曽三川公園
1989. 2.12

Ha-004 
 

 木曽・長良・揖斐の三川は濃尾平野で流れを接し、南下して伊勢湾に注いでいる。ゆるやかな流れをたたえるこの水郷の地では、冷え込んだ冬の夜、カノープスが良く見える。さらに、好条件に恵まれれば「カノープスが水面に映る」という極めて珍しい情景をも見ることができるのだ。
 もちろんそれは地平線付近まで良く晴れ上がった夜でなければならず、また、カノープスの南中前後のせいぜい30分ほどの間に限られる。その上、たまたまその時、伊吹おろしの強風がぴたりと鳴りをひそめて水面からさざ波が消えるという、とてつもない強運が重ならなければならない。
 そんな千載一遇のチャンスに出会ったのは15年以上も前のこと。水面のカノープスに気づき、アルゴ船の舵手という伝説にあやかって前景に舟を入れ、大慌てでシャッターを切ったのだが、気づくのが少し遅かったようだ。カノープスの軌跡が遠くの送電線に引っかかってしまい、残念ながら作品としては失敗と言わざるをえない。
 これを挽回しようと、以来、冬になると毎年通い詰めているのだが、いまだに成功しない。それどころか、いまでは長良川の岸辺の浚渫工事が始まり、この先に巨大な河口堰も異容を現して、風景が一変してしまった。伝説の水先案内人の灯す微かな光が、水面どころか空からも消え失せてしまうのも、そう遠い先のことではないだろう。

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