岳沢にて

1992年5月2日〜5日

 5月。地上ではもう初夏のこの季節は、山行が危険な時期の一つである。
 その日、我々ウルフ・ネットのメンバー(Ni・Yh・Iw・Stと私)が到着した岳沢ヒュッテは、地吹雪の吹き荒れる天候だった。岳沢ヒュッテなどというと、なんだかとんでもない山奥と思われがちだが、上高地からせいぜい2時間で行けるお気軽コースで、小屋は標高2230mのところにあるのだが、気候は上高地とはまったく違う。下は春でもここはまだ冬。当然冬用の装備が必要だ。この時期、山が危険なのはまさにそういう状況をわきまえない人たちが、軽装で山に登ってくるということにつきるが、この日も何人かそういう命のいらない人々を見かけた。(もっとも上高地においては、こちらのかっこうは大げさすぎてかっこ悪いという点はある。)
 ともかくも、そういった人々をかきわけてグループの先頭でヒュッテに着いた私は、宿泊の手続きを済ませ、ウルフ・ネットの他の隊員を待ちながら、あたりの風景をながめ、撮影ポイントを考えた。5月ということで、小屋にはこいのぼりがかかっていて、雪だらけのまわりの風景に彩をそえている。昼間の写真では、なかなかのおもしろいモチーフになりそうだった。しかし“星と風景”の写真となると、ここ岳沢ヒュッテは、山が南へ向かって扇状に落ち込んでいる中央、要の位置にあたり、吊尾根、天狗のコル等が見えることは見えるのだが、山の中腹より下から見上げるかっこうの山々は、どうしても写真では大きさと傾斜を表現出来ないのだ。しょうがないので、吊尾根と北天の日周運動を撮るように考え、ついでに少しまわりの日中の風景写真を撮影した。
 小屋で夕食をとり、外へ出てみたが、この日の天候は曇りで星の写真は無理のようだった。外は真っ暗なのかなと思いきや、意外に明るい。雪あかりというよりは松本の街の明りがこちらに影響しているようで、カブリを心配する反面、これならヘッドランプなしで小屋の回りを行動できると思った。ともかくこの晩は寝ることにして、綾辻行人著の「暗闇の囁き」を読んで寝てしまった。
 次の日。日中、Ni・St両隊員と上高地に下り、五千尺ヒュッテでケーキセット(ここのは最高!)を食べ、買い出しをした。五千尺オリジナルアイスクリームを買って再び岳沢へ戻り、天候が回復してきたこともあって、昼から少し仮眠をとろうと布団に入ったが、子供が騒ぎ立て、ろくに寝れなかったので、また本を読んでいた。
 夕方は少しまだ雲があったが、夜になり星が出てきたので、撮影の準備を整え外へ出た。吊尾根が写るよう、少々小屋の下の方へ移動し、小屋の明りが入ってしまうのを恐れて構図をとった。というのも、今回は露出1時間程度の写真を撮ってみたいとの頭があったので、小屋が入るとそこだけ露出オーバーになってしまうからだが、後から考えるとこれは大失敗であった。よく写真の足し算・引き算ということをいわれているが、このときの写真は引き算(構図より余分なものを除くこと)しすぎてマイナスになってしまったような感じで、小屋が入った方が露出は多少短くなったとしても、もう少し風景に面白みがあったろうと、後で写真を見て思った。ともかく、この晩撮った写真は構図は単調、「どこのスキー場で撮ったんですか?」というような写真で、しかも暗夜にフジクローム400という最悪の組み合わせで、発色も真っ緑になってしまっていたのでした。トホホ…
 まあ、たまにはこういう事もあるさっ、というわけで出た結論、
 「岳沢は撮影するのが難しい」
 アデュー。

(注) Iw氏、St氏は元会員です。


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