錦秋の北海道

1994年10月7日〜11日

 美瑛通いも二年目の秋を迎え、通算11回目になった。今回は機材が多いので、カメラレンズ、三脚は宅急便で民宿に送っておいた。中判カメラ2台、1眼レフ2台、交換レンズ十数本、三脚2本の大所帯である。これも夜の撮影だけでなく、朝霧に浮かぶ美馬牛小学校の塔を撮るための機材があるからである。

 10月7日AM7時40分、ANA701便は定刻に名古屋空港を離陸し、新千歳空港に到着した。重い荷物を持って地下のJR駅に移動し、快速エアーポートに乗り込んだ。札幌でL特急スーパーホワイトアローに乗り換え、12時20分旭川駅に到着した。昼食をすませ、駅レンの事務所に行き予約してあったスターレットを借りた。
 天気は曇っていてぱっとしないが、とりあえず機材を受け取りに民宿おおくぼに行くことにした。旭川からおよそ30分で民宿に到着。お茶をご馳走になり、一休みしてから送っておいた荷物を車に積み込んで、撮影ポイントを確認に出かけた。丘のじゃが芋畑では農家の人が収穫に大忙しであった。秋まきの麦は青々とし、取り入れの終わった大地と好対称である。結局ポイントを一回りしただけで、写真は一枚も撮らなかった。夜になっても天気はパッとせず、朝早かった事もあって9時頃眠ってしまった。
 朝4時30分頃起きる。雨は降ってはいない。眠っている人を起こさないように静かに外にでる。丘の道を飛ばして撮影ポイントへ急ぐ。天気が良くないからか誰も来ていなかった。とりあえず機材をセットして夜明けを待つ。気温が高いせいかガスがほとんど出ない。日が昇ってきても状況は変わらなかった。仕方がないのでその場所での撮影を諦め、新栄の丘に移動した。空が焼けていたので少し撮影して引き上げた。

 朝食後、大久保のおじさんに茸取りに行こうと誘われた。その頃にはすっかり曇ってしまって、今にも雨が降りだしそうな天気になっていた。ゴロゴロしていても仕方がないので茸狩りに行く事にした。おじさんは納屋から鉈と熊よけの鈴を持ってきた。おばさんにスーパーの袋を貰って、おじさんの車で出発した。途中の店で食料を仕入れ、大雪山方面へ車を走らせ、40分程で俵真布という所に着いた。道路には熊に注意という看板がたくさん立っていた。おじさんに「この辺りは熊が出るんですか」と聞くと「この辺りの山にはかなり居る」といった。
 林道のゲートの脇に車を止めて、後は歩いて山に入る事になった。林道を歩き始めた頃、とうとう雨が降ってきた。ゲートから1キロぐらい歩いたところで、右側の沢に入った。「沢筋の陽の当たる場所に茸は生えている」とおじさんは言った。そのとおり、茸は陽の当たる側にしか生えていなかった。その茸は釈迦しめじといい「とてもおいしい」とおじさんは言った。
 茸を取りながらかなり山の奥まで入った頃、おじさんの呼ぶ声がした。近くにいってみると木の幹に鋭い爪で引っ掻いた跡があった。熊である。しかもその傷跡は新しかった。その傷跡を見てからは、ガサガサと物音がするたびに恐怖が走った。もし熊が出たらおじさんの持っている鉈ではひとたまりもない。熊の影に怯えながらも茸の魅力には勝てず、茸を採り続けた。雨が強くなってきたので車に戻ることになった。かなりの収穫であった。
 車に戻るともう12時近い時間だった。おじさんは来た道を途中まで戻ると、再び左手の林道に入り車を止めた。そこで仕入れてきた食料で昼食を摂った。その時は休憩のために横道に入ったのかと思ったが、しばらく休んだ後、車を捨てて再び山に入った。そこも沢筋の山道である。ちょっと前におばさんと二人で来て、とてもたくさんの釈迦しめじを採った場所でもあった。前に引き返したと言う場所までは、ほとんど採り尽くされて生えてなかったが、さらに奥に行くとあるわあるわの大漁であった。袋に入り切らない程の釈迦しめじを採り、帰りは行きと違う道で民宿へ戻る。そして「明日、美瑛富士に登りにいこう」と誘われた。天気の方ははっきりせず、雨がザァーと降ったかと思うと止んで、太陽が顔をだすという繰り返しである。
 宿に戻ると、おばさんがたくさんの量の茸に驚いていた。おばさんに手伝って貰って茸を干し終わったのは夕方近くだった。何となく空が明るくなってきたので、拓真館の方へ出かけてみる。拓真館の東の白樺の樹の所で、夕焼けを撮ることができた。夕焼けが終わる頃には、月まででてきた。月の写真を何枚か撮影して民宿へ戻ると、もう食事が始まっていた。食事には今日採ってきた釈迦しめじがでていた。特にしめじ入りの味噌汁がおいしかった。夕方は天気が回復したのだが、夜になるとベタ曇りになってしまった。結局2日目の夜も駄目であった。

 朝早く起きて外に出てみるが、今にも泣きだしそうな空である。朝出かけるのは止めた。朝食後おじさんが「今日用事ができたので、山へ行くのは明日にしよう」と言った。もちろん天気が悪いのでその方が良かった。昼食に「四季の風」の手打ちそばをご馳走になった。
 昼食後、旭川へ出かけた。車で行かずにJRで行くことにした。行き先はICI石井スポーツである。明日の登山のためにデーパックとゴアテックスの帽子を買った。買物を済ませて駅へ戻る途中、おいしそうな栗饅頭があったので買って帰った。雨は完全に本降りである。夜になって雨は上がった。しかし撮影できるような状態ではないので夜半まで休む事にした。
 ちょっと寝過ごしてしまい2時頃起きた。すると今まで美瑛では見たことが無いような素晴らしい星空が広がっていた。大急ぎで美馬牛小学校へ行く。塔の上にはちょうどオリオンがいる。透明度は抜群である。中判カメラを2台セットし、いつもの場所で撮影する。露出1時間の一発勝負である。1駒目の撮影が終わる頃、東の空が少し明るくなってきた。もう薄明が始まってしまった。大急ぎで構図をかえて2駒目を撮る。露出しているうちにもどんどん空は明るくなり、星は消えていってしまう。10分の露出を終えたときには、シリウスの明かりでさえ弱々しく感じられた。結局2台のカメラを使って4カットを撮って夜の撮影は終了した。機材を撤収し、朝霧の撮影ポイントへ移動する。
 ポンイトに着いたときは誰も来ていなかったが、夜明けが近付くにつれゾクゾクと集まって来た。ガスの方は着いた頃はいい具合で出ていたのだが、時間が経つにつれどんどん上がってきてしまい、良い写真は撮れなかった。すごいガスで、民宿へ戻る途中も全然前が見えずに恐かった。そのガスも太陽が昇って気温が上昇してくるとすっかり消えた。快晴である。昨日の天気とうって変わって絶好の登山日和である。

 美瑛富士は時間がかかるので止めて、美瑛岳にいくことになった。準備をしておじさんと9時頃出発。コンビニで弁当を買い、車で望岳台へ行く。望岳台から眺める十勝の山は、頭には白い雪を頂き紅葉の衣を着た、まさに錦繍の山であった。10時少し前に駐車場を出発。約30分程で十勝岳と美瑛岳の分岐に到着。おじさんがなかなか来ないので30分くらい待った。「先に行って下さい」と言うので先にいくことにする。分岐からは雲ノ平といい、アップダウンの少ない快適な登山道である。紅葉を撮ろうとカメラを出しシャッターを切るが、作動しない。朝使ったときはちゃんと作動したのに、気温が下がったため電池の能力が急に低下したらしい。仕方がないので写真を撮るのはやめて、しっかり紅葉を観賞しながら歩くことにした。
 12時少し前に水場であるポンピの沢についた。そこで昼食を食べることにした。沢を吹き抜けていく風はすごく冷たい。食事をしているうちに体はすっかり冷えてしまった。頂上までの時間をガイドで確認する。およそ2時間強、3時頃になってしまう。おじさんも来ないことだし、ポンピの沢で引き返すことにした。引き返して20分程歩くとおじさんに合流することができた。そこでしばらく休んでいると、美瑛岳から下りてきたパーティーがきた。話を聞いていると山頂付近はコチコチに凍っているらしい。もしピークを目指して登っていっても、途中で引き返すことになったのは同じだっただろう。しばらくして下山することになった。おじさんは「ゆっくり下りていく」というので、先に望岳台まで下りていくことにする。
 あっという間に望岳台に着いてしまった。望岳台は紅葉を見にきた人で大賑わいであった。おじさんが下りてくる迄、車の所で待つことにする。カメラを出してみると、電池が復活したので紅葉の山を撮影することができた。ちょっと目を離したすきに、北キツネに新品のザックを齧られてしまった。1時間ほど遅れておじさんも戻ってきた。民宿に4時少し前に帰り着いた。今日の好天に、干しておいた釈迦しめじはかなり乾燥した。夜露にさらさないように軒下にしまう。荷物を片付け、着替えをしてしばらく休憩する。カメラも予備の電池に交換した。

 5時少し前に、夕方の撮影に出かける。十勝の山が夕映えに染まってきたので、美馬牛峠から塔と十勝岳を狙うことにする。峠から400ミリで何コマか撮影する。山が思ったほど焼けなかったので、美馬牛小学校に移動した。小学校の東に回り夕焼け空にそびえる塔を撮影。まだ夕焼けが残っていたので哲学の木(拓真館の東の白樺の木)まで行って夕焼けの撮影をした。
 夕食をすませ、8時頃夜の撮影に出発。日中と同じく快晴である。山を近くで撮ろうと思い色々な場所に行ってみるが、結局山の近くで撮ることができなかった。理由は十勝岳の避難路の照明のせいで、山の近くにいくと美瑛の市街地より明るいくらいである。そんな訳で美瑛の丘から2カット撮って終わった。移動しているとき北斗七星の見事な下方通過を見ることができた。山を諦めてマイルドセブンの丘にいく。いつものカラ松林を入れて、1時間と2時間の撮影を行なった。ガスが湧いてきたので、そのまま宿に引きあげることにした。

 最後の朝は寝坊してしまった。4時に起きなければならないのに、目が覚めたら8時だった。今日も快晴である。大急ぎで食事をして、撮影に出発。ポイント早まわりで撮影する。山の頂がかなり白くなった。山の白と丘の緑が見事なコントラストであった。昼前に戻り、撮影機材を片付けヤマト運輸の美瑛営業所へ持っていく。身の回りの物だけになって、民宿おおくぼを名古屋にむかって出発した。今回は写真だけでなく大変充実した北海道行きであった。


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