●八鹿の町で
昨年の暮れに転勤となり、但馬の山懐に抱かれた小さな町に越して早くも半年近くが過ぎ、雪かきの日課が無くなったとたんに春と夏がいっぺんにやってきた。この付近は、日本海の影響を受けてフェ−ン現象が発生するため、非常に暑くなるのです。
最初に赴任するとき、皆一様に奥歯に物の挟まった言い方をするのが気になっていた。昔の事件がいまだに尾を引いて人々の脳裏に焼き付いているようで、構えて対応していたが、今ではすっかり郷に入ってしまって、憶することなく生活しており、知人も出来てきました。
そんなある日、役場で但馬中央三山縦走に参加するように誘われた。
その時は曖昧な返事で過ごし、忙しさにかまけて申し込み期日か過ぎ、「これで山行きはまぬがれた」と思っていたとき、町長室の前で課長にバッタリと出合い、付録で申し込みをする羽目になった。産業課の受付嬢は、私の顔と申し込み用紙を見て、「ハイ、一般コ−スでいいですネ」と勝手に決めてくれた。
●但馬三山縦走
山とは縁がなく、登った山といえば、伊吹山、霊仙山と昨年の西穂高ぐらいなもので、全然自信がない。
まず、昨年Naさんにお借りしたリュックに似たものを買い込み、靴はHaさんのを借用することにして、弁当、チョコ、アメ、着替え、カメラ一式(月令は悪いが、昨年の失敗をしたくないので全部。昨年の失敗ですか? 重量を減らそうとオ−トドライブをはずしたためレリ−ズが取付出来ず、シャッタ−を押し続けていなければならず、写真がブレて全部パ−)欲張って、とにかく頑張ろうと出かける事にした。
当日、受付を済ませ出発を待っていた時、バッタリと課長と出合い、「一般コ−スですから後から」と挨拶したら、課長は受付嬢に「所長、健脚に変更」と指示を出し「一緒に行きましょう」と誘われた。健脚コ−スがどんなところを歩くかも知らず「恐いもの見たさ」について行くことにした。
●いざ出発
標高750mのキャンプ場入り口で出発式を行い、160名程が稜線を登っていく。
課長が先頭に立って歩いていく。速い! さすが「田舎の課長」。まるで昨年のYo、Kt両氏の神風登山の様相である。早々にHa式マイペ−ス登山に切り替えた。
今年は例年になく残雪が多いとのことで、雪に足を取られながらの行軍である。神戸から参加した男性と、環境や地球の問題について話しながら登る。
杉林を抜け、芽吹き始めた落葉樹の間を歩く。ウグイスの声を聞き、新緑を愛でながらの登山は楽し、リュックは重し。
やがて「孤高の人」のモデルとなった加藤分太郎や、植村直巳がよく登ったと言う妙見山頂(1142m)へ辿りついた。360度のパノラマであるが、春霞の状態で遠くかすんで見える。
小休止の後、6.5qを一気に降りる。
金山峠で一般コ−スと合流、380人程の総勢となる。仕事で世話になっている課長補佐と会い、世間話をしながら第二の目標である蘇武岳(1075m)へ向かう。一般は林道を、健脚は登山道を。皆の後を追うように健脚コ−スに行ってみたが、すごく急な部分があり両手を突きながらの登山。
頂上の少し手前で昼食となった。食事をとり、休息をした後再び出発。この時、小さな水筒は既に空となってしまっていた。いかんせん自販機のない山の中、「ままよ、いざとなったら谷水を」と下山する。
頂上より暫く下った所にパイプが渡してあり、先行の人々が顔を洗ったり口を濯いだりしている。同様に顔を洗い、3杯ほど冷たい谷水を飲んだ。冷たい水が喉を伝い体の中へ。ビ−ルよりもうまいと思ったが、これが翌日に利いてきた。
冷たい水を呑んで元気が出たが、肩にズッシリとリュックがのしかかる。空は曇ってきた。欲をかいてカメラ一式持ってこなければ良かったと思っても後の祭り。
第一日目の最後の難関?スキ−場のゲレンデだ。まだ少し雪が残っている。課長補佐氏(女性)、リュックよりビニ−ルを取り出し、お尻の下に敷き、足を持ち上げて滑っていく。実に屈託がない。
ビニ−ルがないので、急な坂道をボ−ゲンよろしく斜め斜めに降りた。
●夕食時の懇親会
受付を済ませ、ク−リングダウンの体操を自身で行い、日高町のユトリロ温泉に無料招待で入る。実にいい気分だ。
夕食の懇談会は、町の職員が登山をしながら取った山菜(タラの芽、コシアブラ、イタドリ等など)でビ−ルの差し入れを頂く。泊まりは60人程で、町職員に進められるままに中央の席に着く。こちらは誰か皆目分からないが、あちらは判っていて「所長どうぞ」とビ−ルを注いで呉れる。注がれるままに頂き、楽しい一日が暮れた。
●雉ウチ
2日目は180人の参加となった。
昨日のク−リングダウンと温泉が利いたのか、足腰は殆ど気にならない。ただ、腹の調子が今一つよくない。
今日の山(三川山888m)は低いし、昨日、役場の人にカメラを持って帰ってもらったので、肩は軽い。NTTやNHKの通信所となっている山のため、管理用道路が整備されている。8q程ダラダラと、ブナやカラマツの新緑を見ながら登った。
頂上からは日本海が遥かに見える。昼食を頂き、雲行きが怪しくなってきたため、少し早めに降りることとなった。
この頃から腹具合の方も怪しくなってきた。急な崖道や稜線を、180人が次から次へと歩いて来る。脇道などないし、困った。
いよいよ腹具合が悪くなってきた。下に降りるよりしょうがない。飛ぶようにして「お先に」と降りて行くと「あら元気がいいですネ」等と暢気な声が聞こえるがこちらはそれどころではない。3.5qの道のりの長かったこと。
崖を降りきった谷川の潅木のなかで雉を打って一段落した。この付近は石楠花の群生地で、淡いピンクの花が可憐に咲いていたが、ゆっくり眺めるゆとりが無かったのが残念であった。
|