パノラマ超広角撮影

1996年3月9日〜10日

 注文してから3か月待って、届いたばかりのカメラを試写しようと、いつものように無計画な出発となった。単独行動の気軽さで、名古屋からノンストップドライブの目的地、開田高原は、3月半ばというのに数日前の寒波で白一色の雪景色になっていた。夕暮れ時に到着したせいか、いつもより静けさを感じさせる。空気までもが凍り付いてしまいそうな雰囲気がする。
 この日は下弦の月なので、月の出まではガイド撮影をしようと、赤道儀を用意してきた。しかし、どこへいっても駐車場は1mほどの積雪で入ることも出来ず、いつのまにかすっかり暗くなっていた。どうしたものかと考えながら思い付いたのは、去年の夏に見付けた、御岳の綺麗に見える一面にそばの花が咲くところだった。「あそこなら、路肩に車を止めて撮影してもよいのでは?」と、早速その場所へ向かった。
 そこは、夜には誰も通らなそうな未舗装の道で、周りに灯りはなく、空には冬の星座が、都会のそれよりも近くにあるように思えるほど、明るく輝いていた。
 早速、準備に取り掛かる。先ずは防寒対策をいちばんに。それから赤道儀の組み立てを開始する。その時、3ヶ月間待ちつづけたカメラとは別に、もう1本、新しいレンズが同架されていた。このレンズは本当ならば無い筈のものだったが、なかなか届かないカメラのために、用意してあった資金が変化した物である。後に、百武彗星の騒ぎで大いに役立ってくれた。
 最初の撮影は、パノラマ画面の特徴を生かして、冬の銀河付近を全部入れてガイド撮影した。レンズ収差を調べる目的といったところだ。絞り開放で、まず1枚撮影と思ってシャッターを切ったが、実は絞りレバーを逆方向に回してしまって失敗。あわててシャッターを閉じ、フィルム巻き上げレバーに手を掛けたたところで、引きぶたの引き忘れに気がつき、これもまた失敗。安全機構の全く無いカメラを暗闇の中で使うのは、実に不自由なことだ。とにかく何とか1枚写し終わって、もう1枚、今度は超広角レンズの弱点である周辺光量の不足を補正するために、センターNDフィルターを取り付けて同じ視野を撮影した。
 ここまで撮影するのに、いつのまにか23時になっていた。もう月の出が近いようで、東の空が何となく明るい。これからは風景を一緒に入れた固定撮影を撮ろうと思い、三脚にカメラを取り付け、準備に掛かる事にした。
 月の照明を灯した途端に、周りの様子が色のある景色へと変わった。月の高度が上がるに連れて、御岳の山の見え方が微妙に変化していく。冬の星座たちが、山の向こうに沈もうとしているところである。前景と遠景、それに星空のバランスを考えると、シャッターチャンスが限られてくる。早く撮影位置を決めなければと捜したところ、良さそうなポジションは雪の中だった。雪の中へ足を踏み入れた途端、ズボリと膝まで沈んでしまった。仕方なく三脚を大きく広げ、自分は手と足4点に体重を分散することで、やっと沈み込まずに移動が可能になった。
 これからが本番だが、結局、ヨコ構図2枚とタテ構図1枚を、絞り開放で20分づつ露出したところで、オリオン座が沈んでしまった。それに、6枚撮りのフィルムも1本終わってしまった。これからもう1本という気力も無く、眠気が押し寄せてきた。少し物足りなくも感じたが、後片付けをして車の中で仮眠を取ることにした。夜が明けてから日の出の風景を少し撮って、今回の撮影は終了である。
 現像結果は、少し露出が多めで、周辺減光が非常に大きいが、キレ味はとても良い。しかし、パノラマ超広角サイズを使いこなすのは、とても難しそうである。これから、楽しい苦労が続くことだろう。


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